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「普通だって。飛鳥が長いんだよ」
「俺だって普通だ」
「坂叉さん長そう」
「上司の話はやめろ。俺はあいつ苦手だ」
飛鳥が眉間にしわを寄せて口角を下げた。滴る水滴を首に掛けたタオルに吸わせながら、雄太がフライパンを覗き込む。
「いい匂い~」
「大半はお前が作ったんだろ」
「仕上げはあす~かさ~ん♪」
「誰がお母さんだ」
ふんふんと鼻歌を歌いながら、戸棚から皿を出して飛鳥に手渡す。次いでスープの椀を出し、鍋の傍らに置く。そして冷蔵庫を開き、
「ビール出しちゃう?」
「おう出せ出せ」
「やりぃ」
缶ビールを二本出し、グラスも二つ、大きな手に持ちリビングに運ぶ。そしてリモコンを取り、帰宅する前からタイマーで作動しているクーラーの温度を少し下げる。風呂上がりは暑い、火を使うキッチンも暑い、隣接するリビングも暑い。つまりは自分が暑いだけなのだが。
「魚焼けたぞ」
「俺も今ほかほかの出来上がりだよ」
「お前食うぐらいだったらキビヤック食った方がマシだ」
「あっひどい。俺に対してもキビヤックに対してもひどい」
「ゲテモノの肩持つのかお前……」
「案外おいしーかもよ」
「お断りだ、この悪食め」
悪態をつきながら魚を皿に盛り、再びキッチンに来た雄太に皿を渡す。器用にも片手で二枚皿を持ち、引き出しから箸をひょいひょいと拾い上げてリビングに引っ込む。
「はふっ、あっつぅ!」
「おい! つまみ食いか!」
リビングまでの道中でつまみ食いをしたらしい雄太が喚く。やれやれと肩を竦め、そろそろ火が通っただろうかとスープの鍋を開け、お玉ですくって椀に注ぎ込む。できるだけ具を均等に、偏らないように慎重に。
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