不思議な偶然

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「意外に()いてますね」 「そうだね。 .....はぁ、温かい」 タイミングよく座ることが出来た。ロングシートの足元から出る温風が脹脛(ふくらはぎ)に優しい熱を届けてくる。 すぐ正面でつり革を持つ大学生くらいの男4人の内、1人に革靴の先端を踏まれた。謝る素振りは全くない。 いつもならストレスを感じるが、今日はとても大らかな心で許せてしまう自分がいる。 イルミネーションが灯り始めた駅のお陰か、久々に楽しんだ同僚との酒のお陰か、はたまた、猛威を振るう寒さのせいか。 プシュー、とドアが閉じ、外気が遮られる。 ほんの少しだけ、いつもより背筋を伸ばして座ってみた。 「この駅、張り切り過ぎだと思わない? もうクリスマスの用意してる」 流れていく景色を見ながらそう言うと、花耶も首を横に向け、窓の外を目で追った。 「ハハッ、気が早いですね。 私の家の近所にもありますよ、もう本格的にイルミネーションを始めてるところ」 「えー、凄いね。 帰り道、ちょっとだけロマンチックじゃん」 「頻繁に見てると飽きちゃいますけどね」
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