ゴミ

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「今日も入ってない、か」 全てのゴミ箱を(から)にし、隙間から朝日が射しこむブラインドの前で、そう呟いた。 ゴミがないと人物像が浮かばない。 他の人なんてどうでもいい。私が今一番知りたい彼は、一体どんな人物なんだろう。 このデスクで何かの仕事をしている彼。いつもハキハキと皆に指示を出している彼。 目が合うと必ず、優しく微笑んで会釈してくれる彼。 頭の中にいつもの姿を思い浮かべながら、小さな溜め息を吐いた。 きっと、この4つのデスクを使っている人達は、パーテーションの向こう側で仕事をする人達とは何かが違うんだ。 そんな特別な人達の中でも中心人物の彼。休日も出勤して難しい顔をしている彼。 誰よりも早く来て、大きなアクビをしている彼。 ああ、あなたは一体どんな人なのですか?  心の中で昨日と同じ事を呟きながら、胸ポケットに差したボールペンを出し、見つめる。 数秒、そのままでいると、時計の秒針の音がやたらリアルに聞こえてきた。 「......うん、よし。今日も頑張ろう」 嬉しさに緩む頬を気にせず、シュルシュルーとブラインドの紐を引き、オフィスに朝の光を招き入れた。
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