幸せの温度

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 ハッと息をつくタイミングで、自らの舌を陽の口腔内に挿し入れた。目を見張った陽からは、倍返しに愛情深く甘い蜜が注がれた。 「……ったくお前は、こっちの身にもなれよ」  吐き出されるように告げられた言葉は、劣情に濡れていた。  車内には荒く吐き出される息と、互いの湿った水音だけが響き、それがより大きな快感の波をもたらす。身体が熱くスリっと無自覚に腰を擦り寄せると、昂ぶった下肢をお返しと言わんばかりに押し付けられた。 「も……ダ、メだよ……」  これ以上は引き返せなくなりそうだった。わかってると艶めいた低い声で告げられ、何度目かの震えが走った。耳元から全身を愛撫されているようだ。  軽く啄ばむようなキスがチュッと音を立てて送られる。名残惜しい気持ちは互いにあり、唇の間を銀糸が伝いそれを舐めとるように、もう一度唇が重なった。 「葉月、迎えに行かなきゃな」  もしかしたら陽がそう言ったのも、冷静さを取り戻すためだろうか。睦月にとっても、葉月の名前は効果的だった。  身体中から熱が引いていく、汗ばんだ身体は少し寒さを感じるほどだ。 「はい」  動き出す車の窓の外を見ながら、ソッと唇をなぞる。もっと、その唇でいっぱい触れて欲しいなんて贅沢だろうか。 八     
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