幸せの温度

118/232
4055人が本棚に入れています
本棚に追加
/232ページ
 陽は体格の割にインドアだからか、大食漢ではない。それでも大人の成人男性だ。睦月よりかはよく食べる。というか、睦月が食べなさ過ぎだと言われるが、自分の周りには陽を始め、荒地といった体格のいい男が多いからだ、きっと。 「兄ちゃん、手もあらったよ~」  着替えが終わり、行く気満々にリュックまで背負い込んだ葉月が、手のひらを睦月に向けて、見てと言う。リュックを背負ったまま食べる気かと、苦笑が漏れた。 「綺麗になったね。でも、リュックは玄関に置いておいたら? ご飯食べられないよ」 「持ったままたべるから、いいの」  ギュッと肩紐を掴み、離すまいとブンブンと首を振った。我儘ではないが、誰に似たのか頑固な葉月はこうなったらテコでも動かない。  小さくため息をついて、仕方ないなと溢す。 「誰に似たんだろ……」 「お前だろ?」 「へっ?」  テーブルに運ぶのを手伝うつもりなのか、陽がカウンター越しにほらと手を差し出した。 「お願いします……って、俺?」  椀に入れた味噌汁を手渡しながら聞くと、そっくりだと喉奥で笑われる。  自分のことをそんなに頑固だと思ったことはないが。 「あ、そういえば今日って車で行くんですか?」  県内にある動物園は、車で一時間ほどかかるが、電車でもそう遠くはない。朝早いこともあって、混雑も避けられるだろう。 「そうだな……お前は、もう車平気か?」     
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!