幸せの温度

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「話し出すと遅くなるから、道すがらゆっくりな。取り敢えず食べて出るか」 「あ、はい」  葉月は早々に食べ終わり、食器をキッチンへと片付けていた。睦月は食洗機へと洗い物を入れてから、エプロンを外し鞄を持った。 「葉月、トイレ行って、ハンカチとティッシュは忘れずに持ちましたか?」 「はぁい! 兄ちゃんは、おべんとうとすいとう、わすれずにもちましたか?」 「持ちましたよ、じゃあ行こっか」  水筒をリュックの中に入れ、ランチボックスを手に持つとヒョイと横から伸びた手に荷物を取られた。 「俺が荷物持ちするから。葉月と手繋げないだろ?」 「ありがとうございます」  マンションの地下駐車場に停めてある陽の車は、白のセダンだ。青い車に乗っている記憶はないから、睦月と暮らし始める前に買い替えたのだろう。  特に疑問も持たず、葉月をチャイルドシートに乗せ助手席のドアを開ける。葉月が飽きないように子ども向けのCDをセットすると、昔よく聞いた童謡がスピーカーから流れ始めた。  後部座席でご機嫌に歌う葉月は、朝が早かったため帰りにはグッスリだろう。  車はゆっくりと動き始める。陽も見た目にそぐわず運転は非常に穏やかだ。 「お前らを引き取る手続きをする間……児童養護施設にいたの、覚えてるか?」     
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