幸せの温度

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「今日はね、お母さんとお父さんの昔からの友達と、お肉食べに行くのよ~しかも、奢りだし!」 「こら、那月! 陽にあんま甘えんなよ。あいつだって駆け出しなんだから」  車の鍵を手に持った父が、母を諌める。睦月の頭には滅多に食べられない肉という言葉しかなかった。そう量が食べられるわけではないけれど、やはり嬉しい。 「わかってるわよ~でも、陽と充くんが言ってくれたんだもん。肉は全部買っておくから、子どもの飲み物だけ持って来いって。じゃ行こっか」  母の差し出す手を握る。小学校二年生になって母と手を繋ぐのは正直恥ずかしいが、振り払うことも出来ず、友達が見てないところでならとその手を未だに取ってしまう。 「睦月はいつまで経っても、甘えん坊だなぁ」 「甘やかすのは健ちゃんでしょ?」 「仕方ない……だって、可愛いから!」 「まったくもう……」  友達のお母さんよりも、若くて凄く綺麗らしい。これもまた友達情報で、睦月のお母さんは若くて美人でいいね、お父さんも格好いいよねなんて言われることがしょっちゅうだからだ。自分の母親が美人かどうかなんて、よくわからないが母が言うには睦月は父そっくりらしい。  アパートの前の駐車場に停めてある車の後部座席に座る。母は父の隣に座って、時折睦月を振り返りながら三人で喋るのだ。     
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