幸せの温度

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「那月がポロッとな。いや、でも助かる。二人とも働いてると、なかなか普段ゆっくり過ごせないからなぁ。しかも、俺も那月も頼る親戚とかもいないし」  父の話す内容は理解できなかったが、何だか大変そうだなとは思った。 「十六でこいつ産んで育ててんだ。立派だろうよ……那月もお前も」 「そう言ってもらえると救われるよ」  遠くから健ちゃんと父を呼ぶ母の声がする。 「悪い、睦月見ててもらえるか? 準備は俺らがやるから」 「ああ、料理からっきしダメだし、頼む」  残された睦月は、再び落ちている石でも集めて遊ぼうかと思っていると、陽が車から簡易椅子を出して広げてくれた。 「ありがとう」  チョコンと座り、手に持っていた本が読めると陽に笑いかける。 「その本、家から持ってきたのか?」  つまらなくなった時のために、家から何か持って行きなさいと母に言われ、選んだ本がこれだった。もう何度も読み過ぎてボロボロになった本は、ところどころをテープで補強しながら何とか本の形を保っていた。 「うん、これ、気に入ってるんだ。知ってる?」 「そりゃあな……それ書いたの俺だし」  照れ臭そうに、鼻の頭をかいた陽がポツリと溢した。 「ええっ!? ほんとに?」  睦月が持っている〝しあわせをさがしに〟という小説は、絵が一ページもなくて、端がホチキスで留められている。     
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