幸せの温度

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 母から貰ってもすぐには開くことをしなかった。だって、絵がない本なんてつまらないと言えば、母はこの本を読み聞かせてくれた。  小さな男の子が幸せを探す旅に出て、たくさんの動物に出会い、たくさんの幸せをもらいながら、自分にとっての幸せは何かと考える話だ。  一番初めに出会うのは、ネズミさん。ネズミさんは何が幸せと男の子が聞くと「チーズを食べてるときかな?」と答える。「へえ、いいね」そう言うと、ネズミさんは男の子の小指のかけら程しかない小さなチーズを、さらに指で千切ってわけてくれるのだ。「キミにも幸せのおすそ分けだよ」と言って。  男の子は、小さ過ぎて味のしないチーズを飲み込むと、確かに幸せを感じる。それはどうしてだかわからないまま「ありがとう」と言って旅を続けた。  最後にお母さんのところに戻ってきた男の子は「お母さんは何が幸せ?」と聞いた。お母さんは笑って「あなたが笑ってくれてる時かな」と言った。  男の子は「ボクもお母さんが笑ってくれてると幸せ」そう言って、動物たちから貰ったたくさんの幸せをお母さんへとあげた。 「これ確か、大学の頃に初めて書いた小説なんだよな。あいつ、まだ持ってたのかよ」  懐かしそうに目を細める陽の視線が、睦月の持つ本に注がれる。     
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