幸せの温度

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「ねえねえ、もっと書いてよ。陽ちゃんの書く本もっと読みたい。陽ちゃん大人になったら本を書く人になればいいのに!」 「あのな……小説家になんてなったって、食っていけるのは一握りなんだよ。俺の出してる本まったく売れてねえし」 「ひとにぎり? おにぎりのこと?」  お腹が空いているのだろうかと、お母さんお握り持ってるよと言えば、ガクリと肩を落として項垂れる。何か変なことを言ってしまっただろうか。 「いや、何でもない。そうだな……いつか、またお前に読んでもらえるような小説を書くよ」 「うん! ぜぇーったいね! 約束!」 「ほら、お父さんとお母さんが呼んでるぞ。肉、食べるんだろ?」  両手を広げた陽に抱きつくと、軽々と抱き上げられる。高い場所からは普段とは見える景色が全く違っていて、まるで風を切って空を飛ぶヒーローになったような気分だった。 「わぁ、高いねぇ! 陽ちゃんの髪綺麗~」 「睦月は随分陽に懐いたなぁ……人見知りが珍しいこともあるもんだ」  父がそう言いながらパパのところにおいでと手を広げるが、睦月はううんと首を振って陽の膝へと座った。 「子離れ……寂しいなぁ」 「そういうもんか? 俺はまず彼女作るとこからだなぁ。結婚なんて夢のまた夢だよ」     
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