幸せの温度

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 しかし、その審査は厳しく、引き取り手の家庭環境や収入はもちろん、何時から何時まで家にいるか、子どもが病気の時仕事を休むことが出来るかなど細かなことまで調べられるという。だから、現実的には独身者に子どもを引き取るのは難しいと考えられていた。  父と母の友達だという男の人。どうしてだか会ったばかりなのに懐かしく、思わず気が緩んで号泣してしまった。  後から思えば、中学生にもなって恥ずかしい。が、たくさん泣いて吐き出して、スッキリしたのも確かだ。 (ほんとに、引き取ってくれるんだ……)  ならばと、里親制度を提案したのはその直後だ。  紆余曲折あって、何度か面談を重ねる内に、この人と暮らしたいと睦月の意思も固まった。  しかし、施設に迎えに来た陽の車を見て、震えが止まらなくなったのだ。 「睦月? どうした?」  ずっと、青い車だった。両親が葉月の病院から帰る時も、もう十年以上乗り続けた青い大きな車に乗っていた。ニュースで、警察で……無残にもトラックに潰された自分の家の車を何度も見た。  あの中で、父と母が死んだのだとそう思ったら、急に怖くなった。  児童養護施設で乗る白いバスは平気だったのに。ただ、同じ車だというだけで、両親がいなくなった日のことを思い出した。 「や、だっ……車、怖いっ!」     
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