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睦月の言葉にハッと何かに気付いたかのように、陽が立ち竦む。足がガクガクと震える。重い身体を引き摺るように施設の中へと逆戻りし、入り口のドアをくぐったところで、意識はブラックアウトした。
「なんで……忘れてたんだろう……」
ハンドルを握りながら陽の昔話を聞いていると、小学生の頃のことですら、鮮明に思い出せる。むしろ、あの陽ちゃんを自分の記憶で結び付けられなかったのが信じられない。
「で、レンタカー借りてもう一度迎えに行ったんだ。施設のバスとかは平気だったって話だったから。でも、また何かの拍子に思い出すかもしれないって思うと、あまりお前を車に乗せたくはなかった。那月と健吾のことを思い出すのはいいけど、事故のことはお前にとっては辛いことでしかないだろう?」
「っていうか、陽さんってあの時の陽ちゃん? なら、会った時に言ってくれれば……っ」
「いや、普通に覚えてると思ってたんだよ。でも、大人にとっての四年と子どもにとっての四年は違うよな。お前と会ったのは、小学校二年の時が最後だったし、俺も賞に応募したりで忙しくて、なかなか健吾たちにも会えなかったから。実は、忘れられてることにショックを受けたんだがな」
「う……ごめんなさい」
素直に謝れば、色々あったからなと過去の出来事に思いを馳せるかのように陽が呟いた。
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