幸せの温度

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「前に乗ってた車が青いミニバンだったってことすら、忘れてた。事故のこと忘れたわけじゃないけど、当時テレビでやってた映像とかはもうあんまり覚えてないんです」 「それでいい。俺も聞けなかったからな、もし忘れてたら敢えて思い出させることはないだろう、って」 「聞けてよかったです。ずっと、どうして陽さん車あるのに、出かける時は電車なのかなって思ってて。それに、田ノ上さんの車で帰って来た時も、不機嫌だったから」 「それは……単純にあいつの車の助手席に座ったのかと思って、ムカついただけだろ」 「えっ……」 「密室じゃねえか」  拗ねたように言われて、顔が赤く染まっていく。後部座席に座っている葉月も、難しい話は終わったと気付いたのか、身を乗り出して話に加わった。 「陽ちゃん、やきもつ~?」 「葉月、それを言うならやきもち、じゃない?」 「そうそう、嫉妬とも言う。こっちが怖くて乗せるの我慢してんのに、好きな相手はホイホイ他の男の車で家に帰ってくるんだからな……って、そろそろ着くぞ。葉月上着着ろよ?」  暖房のついた車の中は暖かいが、外はかなり寒い。これでも一月にしては気温は高い方だと言うのだから、毎年のことながら慣れるものでもない。  動物園には小さな水族館もあり、この寒さにあまり動物が見られないようだったら、そちらへ移動しようと陽と相談していた。     
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