幸せの温度

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「どうするとかって言ってたか?」 「わかんないけど……機嫌は悪かった」 「じゃあ、大丈夫か」  カーブを切り電車が傾く、何度乗っても同じタイミングでバランスを崩してしまうのは睦月だけではない。 「あ、ごめ……っ」  座席に背中をつける形でバランスを取っていた睦月は前のめりに倒れ、荒地の学ランへと顔を埋めてしまう。 「浮気者って言われるぞ。ま、いいけど」  荒地の顔が幾分か赤いのは、照れているのか。ぶっきらぼうだが優しい男で、睦月は中学から何度もこの手に助けられている。 「犯人の気持ちも、わからないではないよな……」 「え……?」  犯人がどうたらと言ったか、と先ほどよりも近くなった目の前の学ランから顔を上げて聞き返す。荒地は窓の外を見ながら、何でもないと首を振った。  電車が駅に着き止まる。スッと荒地の学ランが離れていって、降りるぞと低い声が頭上から降ってきた。  何でもない会話をしながら、葉月の保育園に向かう。  前に荒地がマンションに来たのは一年も前だ。さすがに、葉月は覚えていないだろうと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。 「アラチだっ!」     
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