幸せの温度

170/232
前へ
/232ページ
次へ
 教室内から葉月の声が響く。背の高い荒地は見つけやすかったのだろう。睦月に視線を向けるより先に、葉月は荒地を見つけていた。 「久しぶりだな、よく覚えてんな~お前」  荒地が葉月を抱き上げると、いつも陽が抱き上げるときと同じ高さになるのか、葉月が目を輝かせる。 「だって、アラチ陽ちゃんににてるもん」 「背が高いからね」 「そうだけど、ちがうよ~なんかいっしょなの。兄ちゃんのこと見てるときとか」 「ふうん?」  話し方とかも似ているかもしれないなとは思う。子どもながらによく見ているものだ。  担任に挨拶を済ませると、抱っことせがむ葉月を荒地がずっと抱きかかえて歩くことになってしまった。 「荒地ごめんね?」 「いや、子どもって体温高えからあったかい。ほら、葉月落ちんなよ」  さすが荒地はバスケ部に籍を置いているだけのことはあって、二十キロ近くある葉月を軽々と持ち上げる。睦月もよく抱っことせがまれるが、重くてすぐにギブアップしてしまい、そうすると陽が代わってくれるのだ。  荒地の家は、陽のマンションから数十分行ったところにある。中学は二人の家の中間地点にあり、部活がなければ落ち着くまで送ってやれるんだけどなと、残念そうに荒地が言った。     
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4099人が本棚に入れています
本棚に追加