幸せの温度

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 男に殴りかかろうとしていた荒地は、睦月の言葉を一瞬で理解すると、マンションに向けて走り出した。睦月が行くよりも確実だし、万が一にでも何かあってからじゃ遅い。  マンションに入って行ったのを見届けて、男がニタリと笑う。後ずさる睦月にジリジリと距離を詰めてくる男にグッと強い力で両肩を掴まれた。  ゾワリと全身に悪寒が走る。後ろへと押されて、一歩一歩と下がると何かに背中がトンと当たった。  マンションの脇は、大きな木が幾つか植えてあり、その影になっている場所を選んだのか、大通りからは見えない。 「……っ」 「キミの学校の子から、写真売ってもらったんだ、ほらこれ見てよ。見るだけじゃ我慢できなくなってさ、キミの制服すっごいいい匂いがしたよ。興奮して堪らなかった」  はぁっと荒く生臭い息が顔にかかる。グッと胃液がせり上がり、吐き気を堪えるために顔を背けた。     
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