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「泣いちゃって~可愛いの。キミ男好きでしょう? いっつも、あの背の高い男とさ……今日はいないみたいだけど、もう一人の男と学校でイチャついてんじゃん」
喋りながらもグリグリと手のひらに、性器が押し付けられる。背後は壁でどこにも逃げ場がないことにゾッとした。
ヌルッと体液が纏わりつく。声も出せずに止め処なく流れる涙は、男の興奮を煽るだけのようだった。
「睦月っ!」
両方の耳から、二人分の男の声が聞こえる。睦月は男を思いっきり突き飛ばすと、来た道を戻って声がする方へと走り出した。
背後で男が何かを叫んでいる。ドンと厚い胸板に当たり、勢いのまま抱きつく。
「おいっ……大丈夫かっ?」
「ぅ、う~よ、うさっ……」
怖かったのと、安心したので喋ることもままならず、しゃくりあげながら陽の身体にしがみついた。
警察はと叫ぶ田ノ上の声がする。荒地と田ノ上の声を遠くに聞きながら、睦月は張り詰めていた緊張の糸が解けたように身体を支えていられず気を失った。
「睦月っ!」
目を開くと、いつもの天井がそこにあった。
薄暗い室内は、朝か夜の区別がつかない。リビングから何人かの話し声が聞こえる。その中には陽と田ノ上、それに荒地の声も混じっている。
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