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姿が見えないと思っていた田ノ上は、キッチンで人数分の紅茶を淹れていたようで、トレーに乗せたティーカップとポットをソファーの前のローテーブルへと運びながら荒地に聞いた。
窓の外に目を向ければ、すっかりと夜の帳が下りている。時計を見ればすでに九時を過ぎていた。睦月は開けっ放しだった遮光カーテンを閉めて、荒地と陽の間に座った。葉月を膝の上に抱っこしながら、キュッと小さな身体を抱きしめる。
「いつも、部活でもっと遅いんで……俺は全然」
「荒地、ほんとにありがとう」
下げた頭の上に、ゴツっと荒地の拳が落とされる。ちょっと……結構痛いんですけど。荒地も睦月の無事な姿にやっと安心出来たのか、まったくもうと疲れたように肩を落とした。
「お前は、っんとによ。葉月をマンションの中に連れて行くまで、俺がどんだけ心配したかっ。それで急いで戻って来てみれば、あの男を突き飛ばして陽さんのとこ行くし」
荒地の口調は明らかに拗ねたもので、睦月はもう一度ごめんと告げた。あの時、陽の声と一緒に荒地の声も聞こえたのだ。けれど、身体が自然に陽へと向いていた。
「でも、結果的に良かったんじゃない? あのヒョロ男を荒地くんと俺で取り押さえて、睦月くんにも葉月くんにも何もなかったんだから。結果オーライ」
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