幸せの温度

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幸せの温度

プロローグ  自分のことを不幸だと思ったことはない。  だって、親がいない子どもなんてたくさんいる。事故や災害で両親共に亡くなってしまった孤児もいれば、生きてはいても愛情を与えてもらえない子どももいる。  広い家に住んで、学校にも行けて、大切な弟も離れることなく一緒に暮らしている──だから、ずっと一緒に居たいなんて思いは、邪魔になるだけだ。  二十八歳という若さで黒岩睦月(くろいわむつき)の両親は天国の門を叩くことになったけれど、その後に得た大きな幸せもあった。  その頃まだ十二歳であった睦月は漠然と〝死〟を理解できていたし、悲しみを感じてはいたが、自分たちの今後を憂う気持ちの方が大きかった。誰も引き取り手のいない子どもは一体どうなってしまうのだろうかと。  どこか自分のことでないようなそんな感覚。  だから、そんなに長く続かない幸せだとは分かっていても、毎日一緒に居ることの出来る日々が愛おしい。  家族になりたい、そう言ってくれた男を裏切るようなこの気持ちは、絶対に知られてはならない。  大好きな人と、一緒に居られる時間はあと僅か──迷惑は掛けないから、あなたを想って泣くことぐらい許してください。 一     
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