千載一遇のチャンス

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 邸宅の大きな扉を運転手が開けてくれ、小さなスーツケースを抱えて中に入る。  「おはよう、ございます……」  タイミング悪く、そこには父の本妻がいた。  ダークブラウンの緩めにかかったウェーブの長い髪、意思の弱そうな少し下がった眉、哀しみの籠ったチャコールブラウンの瞳。頼りないほどに華奢で細い手足……僕の母とは、まるで違う。  彼女は僕の顔を見てハッとすると、唇を少し震わせ、身を翻して階段を上っていった。  少し憂い気持ちになりながら、短く息を吐いた。  久しぶりのスペンサーの邸宅もまた、居心地がいいと言えるものではない。  だが、そこには僕が何より求めていた安全が確保されていた。
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