プロローグ

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 初めてシューイチを見たのは、彼のロンドン公演だった。  ピアノを習い始めてすぐにその才能を開花させ、ロンドンのジュニアピアノコンクールを総なめにしてきた当時の僕は、ピアノなんて誰にでも弾ける、容易いものだと思っていた。  ピアノ講師に、『シューイチ・クルスっていう凄いピアニストがロンドンに来ているから』と誘われてコンサートに連れて行かれた時も、どうせプロって言ったって大したことないだろうとタカをくくっていた。  ロンドンのクラシック音楽の聖地と称される、ロイヤルフェスティバルホール。ロンドン屈指の管弦楽団の公演の大半が催されるその大きな舞台の中央に置かれたグランドピアノ。  スポットライトを浴びたシューイチが、そこに座っていた。  あれが、シューイチ・クルス……    オケと比較にならないほど小さく見えるはずなのに、彼の存在感、そしてオーラは巨大なコンサートホールにいる聴衆を圧倒する程に強く、そして眩しく輝いていた。  
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