地獄の先にあったもの

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 初めて車に乗った僕は、車窓からの景色に釘付けだった。  ブリクストンを少し離れただけで、景色がどんどん変化していく。  寂れた薄暗いビルや家が次第に少なくなり、道路が広くなり、美しい緑溢れる公園や、綺麗に手入れされた庭のある一軒家などが見えてくる。  やがて、賑わいを見せる通りを車が走っていく。  高級感溢れる店が軒を連ね、道行く人々も洗練された雰囲気が漂っている。一際目立つレンガ造りの建物が目の前に迫って来て、それを目で追った。  「あれは、ハロッズと言ってイギリス最大の老舗高級百貨店ですよ」  無言の質問に答えるように、運転手の隣に座っていた代理人が親切に声を掛けてくれた。  たった20分車で走っただけで、こんなにも街は一変するのか……  自分が今までいかに狭い世界に住んでいたのかを知って愕然とする気持ちと、ここでは恵まれた人間たちが自分たちの世界など知らずにのうのうと暮らしているのだと思うと怒りに似た気持ちが湧いてきた。      そこから、ほんの少し先を行ったところにある巨大な門の前で車が停車した。
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