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ロンドンで開かれるあらゆるピアノコンクールに参加し、参加するコンクール全てにおいて僕は優勝した。
それをどこから聞きつけたのか、モルテッソーニという『ピアノ界の巨匠』とやらが僕の出演するコンクールの楽屋に訪ねてきた。
まるでサンタクロースのような体躯だけれど、眼光は鋭く、『巨匠』と言われるだけの厳格なオーラが漂っていた。
側にいた僕のピアノ講師は世界的に有名なピアニストとの対面に恐縮し、興奮する中、僕は冷めた目で彼を見つめていた。
「ピアノ界の巨匠が、僕になんの用ですか」
オーストリア人であるモルテッソーニは英語を片言しか喋れないため、通訳が間に立った。
「もしピアノに興味があるなら、私のところに来ないか。
君には才能があるが、心が全く感じられん。私は君を、育ててみたいんだ」
それは、ピアニストとして高みを目指す者にとっては、魅力的な言葉かもしれない。
けれど、僕にとっては……
「別に。興味ありません」
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