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聴衆が、固唾を飲んで彼の演奏が始まるのを見つめているのが、肌から伝わって来る。
彼の指先が、ピアノの鍵盤に触れる。
座っているのでよく分からないが、大柄には見えない。けれど、遠目で見ても分かるほどに、大きな手に加えて長い指先が印象的だった。
「ラ・カンパネッラ (la Campanella)」 。
ニコロ・パガニーニのヴァイオリン協奏曲第2番第3楽章のロンド『ラ・カンパネッラ』の主題を編曲して書かれたフランツ・リストのピアノ曲。
最大で15度の跳躍があり、この跳躍を16分音符で演奏した後に演奏者に手を移動する時間を与える休止がないまま2オクターブ上で同じ音符が演奏される。ほかにも薬指と小指のトリルなどの難しい技巧を含む、有名な超絶技巧のひとつだ。
シューイチの親指が主旋律を奏でながら、小指が遥か彼方のレ♭を弾く。その間、左手は和音をアルペジオで弾き続けるのだが、それをシューイチは難なく弾きこなしていた。
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