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モルテッソーニはその言葉を聞いて、残念がった。
「そうか……もし気が変わったら、連絡してくれ」
そう言って、僕の住所を聞き、自分の住所を書いたメモを渡した。
正直、全てのしがらみから逃れ、ピアノのことだけ考えていればいい生活は魅力的だった。
だが、父が許すはずなどないと思った。
僕はスペンサー家の後継者なんだ。
父の機嫌を損ねることは、したくなかった。
その地位を、今いる僕の場所を、なんとしてでも守らなければならないのだ。
それに、ピアノに対して特にそれほどまでの情熱や思い入れがあるわけではない。
過去の惨めな生活を思い出させない為の、道具でしかないのだから。
ーーシューイチのコンサートに行ったのは、その後だった。
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