プロローグ

4/7
500人が本棚に入れています
本棚に追加
/267ページ
 このテーマがどんどん難化してその後何度も出てくる。右手を酷使させる指の動きにも関わらず、シューイチの運指は流麗で、見惚れるほどに美しい。  後ろでひとつに纏めた黒髪が、旋律に合わせて艶かしく揺れていた。    優雅でありながら情感的で、それでいて鐘の響きに切なさと哀愁が潜んでいる調べに、心臓がグッと掴まれたように苦しくなる。  これだけ難しい指の動きをしながらも、「la Campanella」のテーマが強く胸に響いてくる。  曲が終盤に差し掛かり、オクターブの連打が連続する。  遠くから聴こえてきていた静かで繊細だった鐘の音が、今では音の厚みを帯びて激しくドラマティックに迫ってきていた。  僕の感情が、彼の旋律に大きく揺さぶられる。  気付いたら、目尻から涙が溢れ出していた。
/267ページ

最初のコメントを投稿しよう!