プロローグ

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 シューイチの写真を雑誌で何度も眺め、CDが劣化するほどに演奏を聴いた。  その度に僕の胸がドキドキし、彼への憧れがどんどん大きくなった。    そのうちに、シューイチがクラシック音楽の雑誌だけでなく、ファッション誌や女性誌などにも載っており、彼が日本で芸能人のような扱いを受けていることを知った。  シューイチのピアノの素晴らしさを分かってるわけでもないのに、容姿だけで騒ぎやがって……  彼の容姿の美しさだけを見て騒いでいる女たちがいることに腹ただしくなり、僕だけが彼を理解している、僕なら彼のピアノの才能を理解出来ると思うようになっていた。  憧れだった存在は、彼に会ってみたい、彼といつか一緒に演奏したいという思いへ変化していった。  シューイチが『ピアノ界の巨匠』モルテッソーニの元で師事すると聞いた時、心が大きく揺れた。  以前にモルテッソーニからウィーンに来ないかと誘われた時には、イギリスを出ることを父は許さないだろうと思い、断った。  父の機嫌を損ね、またあの貧民街へと戻されるのではないかと恐れたのだ……
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