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地獄の先にあったもの
僕は12になるまで、父の存在を知らなかった。
それまで僕は、母と二人、ロンドンでも特に治安の悪いと言われるブリクストンに住んでいた。
近年では洒落た店や個性的な店が多く出店し、物価が安いということで人気が上がっているらしいが、僕が住んでいた頃は昼間でも薄暗い雰囲気が漂い、夜になるとドラッグディーラーがはびこり、翌朝は通りの至る所に注射が落ちている。そんな、街だった。
まるで小屋のような粗末な家。埃と黴の混じった淀んだ空気が蔓延し、部屋には酒の瓶が転がり、あちこちにゴミが散らばる決して清潔とは言えない環境。
それが、僕が生れ育った家だった。
本人談なので信憑性はないが、母は昔は舞台女優として活躍したこともあったらしいが、すっかり落ちぶれた生活を送っていた。
だらしのない女で、薄汚い自宅に昼夜問わず客を連れ込んでは躰を売っていた。
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