第4章

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でも多分この子は 言葉でなく人の心を読む。 「あ……」 母国語でない国で暮らしているせいか 夜の世界に身を置いているせいか ただもともと勘がいいのかもしれない。 正面に回り込み僕の伊達眼鏡を外すと 両手で頬を包み込むようにして テヨンはもう一度 「ん……」 今度は唇の淵から中心に向かって至極丁寧に まるで模範生のようなキスをする。 「誰に習ったの」 皮肉を言いながら 思わず目を閉じた。 「知らない。忘れた――」 愛しい声。 甘いキス。 微かな笑みが同時に降りてきて 「ンン……」 僕も現実を忘れそうだった。 いや忘れたがっていた。 彼が自分の生徒だということも 職業としてのホストだということも――。
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