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「ああ、そうだ!どうだろうか、トール。この旅が終わったら、俺にも仕事をくれないか?今やっている、区画整理もそれなりに重要なんだろうとは思うけど、計画の段階はジエナが済ませていて、毎日進捗の報告書を確認するだけになってる。俺にももっと、仕事ができる」
トールは目を瞬いた。
「お前には、書類仕事に縛られず、好きなことをしてもらいたいと思っているんだ。ジエナのように、各国を見て回るのもいい。そうはしないか?」
コリンは、それも面白そうだな、と思った。
「うん…そう言われると、各国を見てみたいという気もする」
「無理はするな。俺がいる。お前は自由にしてくれていいんだ」
コリンはちょっと笑った。
「それはそれで寂しい。俺も、カザフィス王家の一員だろう?王族の務めを果たしたいし、何より、トールにばかり仕事を押しつけて、知らぬ振りはしたくない」
トールは弟の心に触れて、自分の思い違いを知った。
父やジエナは王宮にいることを窮屈に感じているが、国政を放り出したいわけではない。
むしろ、よりよい国政のために外に出ていたのだ。
一方で、コリンは、父たちが打ち出した新たな試みに価値を見出だし、取り組むことにこそやりがいを感じている。
それぞれ、国を思う気持ちは同じでも、やり方も、やりたいと思う形も、違うのだ。
トールは、ふと、心細い気持ちになった。
自分は、どうだろうか。
ただ与えられた仕事をこなしているだけだ。
それは必要なことではあったけれど、深く意味を、その効果を、結果を、考えたものではなかった。
ひどく自分が物知らずであることを感じた。
「トール?」
コリンが首を傾げて呼び掛けた。
トールは、はっとして、それから考え、コリンを見据えた。
「分かった、帰ったら、事業のすべてを話そう。その上で、お前のしたいと思う仕事を、探すといい」
「ありがとう!」
コリンは破顔した。
思いもよらぬ一面もあったが、その笑顔は、よく見知った弟のそれだった。
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