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その女性は、大陸にただひとつ、カザフィス王国の領土の西にある火山から、人々を護るための結界を改めさせ、ひとつの打ち捨てられたカザフィスの町を、いや、カザフィスという国を救った。
その彼女がもたらした情報であるがゆえに、父たちは恨みごとひとつ言わないのだと、トールは理解していた。
そして自分も、ありがたいと思う気持ちを失ってはならないと思った。
「余裕なら俺が作る!トールはいつも通りの仕事をしててくれ。ただ少し確認したいんだけど、シェナやムーリエに連れていくときの兵は、俺の護衛だけでは足りないんだ。動かしていい兵があるだろうか?」
「それで武官と話していたのか。彼らは王都から動かすな。以前、彩石判定師が来たときは、ヴィロウとハッカムがその役目を負っていた。ヴィロウの方が心遣いが細やかだろう。彼女に至急連絡を取って動けるか聞くといい」
コリンは頷いた。
スエルズ・ヴィロウとは面識はないが、200人からの部隊を指揮する女性士官だということは、ちらりと聞いたことがあった。
カザフィス王国では、女性の士官は珍しい。
今回のような任務には、貴重な人材と言えるだろう。
「だが、ムーリエは通り道だからいいとしても、シェナは少し遠くないか」
「うーん、シェナの美しさは一見する価値があると思うんだけど。それだけといえばそれだけだしな…」
「あまりあれもこれもと欲張るな。特に滞在期間が限られているわけではないが、あちらこちらと連れ回しては、疲れてしまわれるだろう」
「うーん、そうだな。その分、王都で遊んでいただこうかな…しかし女性が喜ぶものと言ったらなんだろう?」
「ヴィに聞くといいだろう。時折市中を歩いていると聞く」
ヴィとは、トールたちの伯母、ヘレナヴィエタ・マエカ・スレイルのことだ。
「そうする!ありがとう、トール」
そう言ってコリンは、早速ヴィと連絡を取りに行くようだった。
トールはそのまま歩き続け、国王執務室の扉を叩いた。
「入れ」
威厳のある声にほんの少し緊張して、扉を開ける。
なかには、数人の大臣、文官がいて、トールを見ると腰を曲げて挨拶した。
「トール、どうした?」
フォーレンがそう声をかけ、トールは大臣たちの顔触れを確認して口を開いた。
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