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「そうだな…それなら、定期便から始めてみよう。1台でもいいから、決まった時間に決まった場所に馬車を出す。それで金を稼いで、新たに馬と馬車を揃える。問題は、稼げるかどうかだな」
ジエナはその考えに大きく頷いた。
「需要の確認になる。やってみよう。ニルフィからフガンに決めて、アルシュファイドの旅行者を目当てにしてみるのはどうだ。アルシュファイド並みの客車にすれば、金払いは悪くないだろう」
「だといいな。最初の客車はアルシュファイドから仕入れるか…?」
「そうだな、彩石のないもので輸出してもらえないか聞いてみよう。カザフィスにはまだ木が少ないし、しばらくの間は、客車はアルシュファイドに頼ろう」
そのとき、これまで黙って話を聞いていたエリィが口を開いた。
「まだ?」
言ってから、口元に手を当てて、ごめんなさいと小さく言った。
話の邪魔をしたと思ったのだ。
ジエナはやさしく笑って、答えた。
「これから増やす予定なんだ」
エリィは頷いて、窓の外の荒野を眺めた。
それからしばらく考えて、困惑したような顔をジエナに向けた。
ジエナはそれに気付いて、笑みを浮かべた。
そして繰り返した。
「増やす予定なんだ」
エリィは大きく目を見開いた。
「どうやって…」
「色々とね、手配している。まだ、植えられるか判らない状態だ。うまくいくといいんだが」
エリィは、この荒野に木を増やす、そのような大仕事を成そうとしているひとを改めて見た。
自分はどんなひとに嫁ごうとしているのか。
今、その大きさを見つめ、畏れを抱いた。
畏れ…それはこんな自分で釣り合うのだろうか、という、不安ともなった。
すると、ジエナがエリィの手を取り、言った。
「そばにいて、力になってほしい。いや、いてくれることこそが、力になるんだ」
「わたくし…」
「うん?」
エリィは、ジエナのやさしさに耐えられず、視線を落とした。
「わたくし、風に当たってきますわ」
エリィにはジエナの顔を見る勇気がなかった。
逃げるように椅子から滑り下り、展望室を出た。
遊歩甲板に出て、強い風に当たると、一瞬で考えていたことを吹き飛ばされてしまった。
エリィが出たのは左舷側で、目の前には広い海が広がっていた。
自分の小ささを感じた。
それは自分の悩みの小ささでもあった。
まだ残る手の温もり。
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