カザフィス王国

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あんなにも求めてもらえる以上に、望むことがあるだろうか。 エリィは顔をあげた。 頑張ろう、と思った。 ひとりではない。 その手の温もりが消えないうちに、エリィは船内に戻った。 乱れた髪を、常にそばにいてくれるポーラが直してくれた。 「ありがとう」 礼を言うと、とんでもないことです、と返された。 エリィはふと気になった。 「ポーラ、あなた、このままわたくしに付いてくるつもり?つまり嫁ぐときにも、という意味だけれど」 「はい。お許しいただけるならば」 「たとえ二度とサールーンに戻れなくとも?」 ポーラは顔を伏せて答えた。 「はい」 エリィはポーラの両手を取った。 「ポーラ、わたくしを見て」 そう言うと、ポーラは顔をあげた。 迷いのない顔とは、このようなものなのだろうとエリィは思ったが、もう一度聞いた。 「わたくし、カザフィスの地に身を置きます。あちらこちらに行くつもりですけれど、帰るところは、カザフィスになります。その覚悟がありますか」 エリィは言葉を重ねた。 「あなたはまだ若い。きっと恋をして、子を()す。それはサールーンでなければ叶わないかもしれません。それでも、わたくしに付いてくる覚悟がありますか」 ポーラはわずかに、重ねた手に力を込めた。 「エリィ様のお(そば)が、私の居場所にございます。どうぞ、お許しくださいますよう」 エリィはポーラの両手を強く握った。 「ありがとう。ええ、許すわ。わたくしの側にいてちょうだい」 エリィは、こちらも付いてきていたキーンとそのほかの護衛たちを見た。 「あなたたちとは、次にサールーンに戻ったときに、お別れね?」 すると、キーンが答えた。 「国王陛下より、エリィ様のお(そば)に付くよう、仰せ付かっております」 「まあ、でも、あなたたち、サールーンの兵士ではありませんの」 「はい。カザフィスの兵士とはなれません。我らはあなた様を守る兵士です。我らには身を置く場所は問題ではありません。我らの王は、ネイガウスト様、やがてはネリウス様となりましょう」 「それは…」 「このことは、ジエナ様もご承知のこと」 他国の兵を、身近に置く度量。 それはジエナが示した、エリィのための、許容であり、温かな心だった。 エリィは、自分の両手を胸の前で握った。 父と弟の思いやり。 ジエナの、そこまでして求めてくれる心。 「そう…、ありがとう」
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