カザフィス王国

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エリィは顔をあげて、ひとりひとりの顔を見た。 「これから、よろしくお願いします」 「身に余るお心遣いです。どうぞ、仕えさせてください」 ポーラがそう言って頭を下げ、キーンが続けた。 「私どものことなど気に掛けることはありません。どうぞ、お心安く過ごされますように」 エリィは、頷いて、(つか)()目を閉じた。 それから展望室に戻ると、ジエナの左手側に座って言った。 「わたくし、頑張りますわ!」 ジエナはそのひと言に、愛しさが溢れた。 エリィの右手を取って指に口付け、視線を合わせて微笑んだ。 「ありがとう」 エリィは真っ赤になって、下を向き、顔をあげて、そっと微笑んだ。 ジエナは抱き寄せて口付けたくなったが、公共の場で守るべき節度を頭のなかで思い描いて耐えた。 「…私は喫茶室へ行く」 不意にトールがそう言って、立ち上がった。 「そうか。俺たちも行こうか、エリィ」 エリィが答える前に、トールが言った。 「2階に行くつもりだが、いいだろうか?」 「ええ、わたくし、2階の喫茶室にも行ってみたいですわ」 そういうことで、3人は護衛たちを連れ、揃って2階の喫茶室に向かった。 こちらでは、茶菓子よりも茶の飲み方に重きを置いているようで、様々な茶と甘味や香辛料の組み合わせが味わえるようだった。 エリィは、熱い葉茶の上に、サワナという甘さと酸味のある果物を薄く切ったものを浮かべて、その上に甘く冷たいアマトラナを載せた飲み物を頼み、その香りと味に満足した。 ジエナとトールは、豆茶に香辛料を混ぜた飲み物を見付けて、それぞれ違う味を確かめ、納得した。 「やはり豆茶と香辛料は合うのだな!ぜひこの作り方を教わりたいが…」 トールは言葉を切った。 この作り方は、料理人の財産だろう。 財産であるべきだと思う。 しかし、この味を言葉で伝えることは難しい。 献立表には、使用してある香辛料などを記してある。 せめてこれを持ち帰ることはできないだろうか? トールは顔をあげて、女給を呼んだ。 「これを作った料理人に話を聞きたい」 女給はやや緊張した様子で返事をして調理場へと行き、少しして、給仕のような格好の少年と、白い服の恰幅のよい男が来て、白い服の男が言った。 「料理長のベレッタと申します。何事か問題でも?」
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