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「いや、問題と言えばあるが、それはそれとして、お前がこの飲み物を作ったのか?どのような経緯でこのようなものができたのか知りたいのだ」
ベレッタは、頷いて、少年を見て促した。
少年は緊張した様子で、サールーンには葉茶に香辛料を混ぜるのが普通なのです、と言った。
「豆茶も同じように混ぜたらうまいのではないかと思いました」
「ああ、サールーン出身なのだな。やはりそのような下地がないとこのような飲み物は生まれないか…」
ベレッタが言った。
「ですが、一度飲みさえすれば、要領は判ります。配合には研究を重ねましたが」
「うん…、それだが、教えてもらうわけにはいかないだろうな?」
ベレッタは、なるほどと頷いた。
「ああ、いえ、限られたものでよければ、配合と作り方をお教えしますよ」
トールは目を見開いた。
「なんと!いいのか」
「はい。広く知ってもらわないと、注文が来ないのです。お客様の滞在はいつまででしょうか?」
「ハルト港で降りるんだ!」
「では、それまでに準備して、お部屋に届けさせます。部屋番号をお教え願えますか?」
「110だ」
「承知しました。ほかにご用はございますか?」
ジエナが口を挟んだ。
「この飲み方は、この船だけか?」
ベレッタは、いいえと首を横に振った。
「ほかのアルシュファイド船籍の客船にも伝えていて、アルシュファイドのレグノリアにあるクルッセオという喫茶店でも出しています」
「その少年の思い付きから始まったのか」
「ええ、最初は葉茶を飲ませてもらって、良かったから、調理場が空いた時間に作らせてみたんです。するとうまいこと作るもんで。店に出せるまでになったんですよ」
ジエナは、瞳を煌めかせた。
「ほう?お前の名は?」
少年はちらりとベレッタを見上げて、答えた。
「カシオです」
「カシオ、なぜ船に乗っている?」
カシオは再びベレッタを見上げて、答えた。
「数ヵ月前、サールーンの空が晴れたんです。結界が強くなって、灰が降らなくなったそうなんですが、とにかくそれで、きれいになった空を見上げて俺、思ったんです。世界にはこんな景色もあるんだって。見て回りたいなって思ったんです」
「うーん、そうか…」
ジエナは残念そうにそう言った。
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