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エリィのために、サールーン王国の茶が作れるカシオをほしいと思ったのだが、世界を見て回るのが望みなら、カザフィス王国に留め置くのはカシオの意に沿わない。
諦めて、それだけだよと2人を下がらせた。
「ネリウスは、ひとの人生を変えるようなことをしてしまったんですのね」
王として成すべきことは、そのひとつに止まらないけれど、エリィは結界改新の効果を初めて知ったのだった。
自分にもできたかもしれないのに動かなかったことを恥じ、今後はそんな風に甘えてはいられないのだと強く思った。
自分が嫁すひとは、王子の身にあってすら、大きなことを成し遂げようとしているのだから。
決意を新たにするエリィの表情を見て取り、ジエナは嬉しさが込み上げるのを、それと同時に胸に温かなものが満ちるのを感じた。
エリィが、自分との結婚を強く意識し、決意してくれているところに、自分に向く気持ちを感じた。
エリィにとって、自分はもう、ただの婚約者ではない。
将来を共にする者となったのだ。
そこには、確かに心があった。
もう、自分ひとりの一方的な感情ではないのだと感じられた。
重ね合わせたい。
けれど急ぎすぎてはいけない。
ジエナは嬉しさを押し隠すように視線を伏せた。
「私はそこの土産物屋の区画で品物を見る」
トールが不意に言って、エリィは気付いた。
自分のことばかり考えて、土産の品を持参するのを忘れていた。
「まあ、どうしましょう、わたくし、なんの手土産も持っておりませんわ!」
「身ひとつで構わない。元々急な話だ」
「私が土産物を見るのは、ただの好奇心だ。母たちへの土産はすでに選んでもらったので、買う気はない」
ジエナとトールが言ったが、エリィは納得しかねた。
「それはわたくしの土産ではありませんもの。エレンタナ様にはせめて何か用意したいですわ。旅の証となるものを」
そう言われ、特に止める理由もないので、ジエナたちは揃って土産物屋の区画に入った。
そこでエリィは、この客船にしか置いていないという、合わせ茶を選んでみることにした。
作り方は、白乳の中に商品の内袋をそのまま投入して煮立て、色が混ざったら出来上がり、好みで砂糖を入れること、とあった。
説明分は判りやすいようで、エリィはポーラに、作れるかと確認した。
「やれそうな気はしますけれど…失敗しては取り返しが付きません」
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