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「12袋も入っているのだから、試しに作ってみたらいいのじゃないかしら」
そう話して、求め、ほかに何かないかと探す。
「あら、これ、サールーン織りですって。そんな名のものは初めて聞きました」
板に書かれている解説を読むと、ズロウラという植物でできた、糸が太く毛羽立った厚い布を、特に、サールーン織りと呼んでいる、と書いてあった。
その解説によれば、サールーン王国の織物は再生布が多いため、最初に織ったズロウラにしかない毛羽立ちの仕方で区別しているのだとか。
「…再生布は毛の立ち方が不揃いで、最初に織ったズロウラは繊維に沿っているため、方向がある。そのため、再生布に比べると手触りが滑らかである…まあ、そんなこと、気付きもしませんでしたわ」
ポーラが言った。
「隣に再生布があります。値段がすごく違います。サールーンの織物は糸を太くしたうえで毛が立っているのが特徴だそうです。再生布でもほかの織物に比べて暖かい、とあります。安い再生布を取るか、高いズロウラを取るか…」
「まあ、触ってみると確かに、ズロウラの方が心地いい気がしますわ。再生布の方は触った瞬間にも暖かさを感じます。これはこれで得難いような…でも、自分用ではないお土産ですものね、真新しさのあるズロウラにしますわ」
横で聞いていたジエナは、トールを呼んでこの違いを見せた。
「似たように見えてそんな違いがあることにも驚きだが、こうも値段を違えることにも驚きだな…」
トールの言葉に、ジエナは低い声で返した。
「何に価値を見出だすかは人それぞれだが、この船では、それを示して、すでに決めている。これが、世界の基準となるかもしれない」
トールは瞬きをしてジエナを見た。
ジエナはトールを見て、ゆっくり言った。
「これが、世界の基準となるかもしれないんだ」
ここまでよいものを提供する、アルシュファイド船籍の船で価値を認められているのだ。
アルシュファイド王国でも価値を認められると考えるだろう。
アルシュファイド王国で、最初に織ったズロウラにここまでの価値を付ければ、どうなるか。
売り手は、高く買ってくれる相手を選びたいはずだ。
ほかの買い手には売り渋るだろう。
また、高く買ってもらえることを覚えれば、最初から値段をあげるだろう。
いや、あげるべきだ。
その価値は信用できる。
ここに書かれてあることは信用できる。
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