カザフィス王国

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アルシュファイド王国は信用できる。 その信用が、世界を動かすだろう…。 「ネリウスに知らせなければ」 たった一品にすぎない。 けれどここからサールーン織りは始まるのかもしれない。 ジエナならば、品質を安定させて、安く売らせないように作り手を教育する。 ネリウスがどうするかは判らないが、この重要性には気付くだろう。 トールも、同じ結論に至ったらしい。 「この船は、物の価値を作っているのか?」 「恐ろしいのは、この船に限らないだろうというところだ。アルシュファイド船籍の船のほとんどは、国の船だ」 「国の船、とは?」 「アルシュファイド国が運用している。個人ではなくな。この船の基準は、ほかの船の基準でもあると考えられるし、それは、アルシュファイド国の基準とも言える。物の価値は、こうやって船で運ばれ、アルシュファイド国によって決められているのかもしれない…」 最も古い歴史を持つ国。 外交はしてこなかったが…こういう形でずっと世界を動かしていたのかもしれない。 それは(おそ)れるべき現実だった。 暴利を貪ることもできたろうに、公平な目で物事を見て、アルシュファイド王国は、各国に機会を与えているのだ。 自力で立ち上がる機会を。 「豆茶の価値も、葉茶の価値も、こうしていつのまにか決まっていたのかもしれない。だからこそ今がある」 ジエナの言葉に、トールは頷いた。 どこの国に持って行っても豆茶には一定の価値を認めてもらえている。 それこそが、今はカザフィス王国の命綱だった。 「豆茶と香辛料の組み合わせは、思う以上に価値があるかもしれない。香辛料を加えて味に違いを出すことで、飲んでくれる者が増えれば…」 被せるようにトールが言った。 「研究してみる。アルシュファイドに任せていないで、自国で」 ジエナは頷いた。 「頼む。一度サールーンに料理人を派遣するといいだろう」 それからふたりは、そこにある各国の土産物を眺めては、解説文により違いを確かめ、カザフィス王国で同じことがないか考えた。 そうしているうち、船内に声が響いた。 「ご乗船の皆さまにお知らせします。まもなくポス港に接岸します。こちらで降りられるお客さまには、お忘れ物なきよう、今一度、身の回りの品をご確認くださいますよう、お願い申し上げます」 「おお、時間だ」 没頭していたジエナが声を上げている()に、声は続けた。
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