カザフィス王国

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トールが声を上げ、コリンはこの火を、一瞬だけ水を出現させて消した。 「これは気を付けないと、消したと思ってもまた火が戻るんだそうだ。燐寸は、アルシュファイドでは一家にひと箱程度あるらしい。点火器も、もしかしたらあるかもしれないと言っていた」 ポーラが言った。 「燐寸はサールーンの王宮の台所で、非常用として置いてあります。貴重品だという話で、これまで使ったことがあるかは知りません。湿気ると使えなくなるので…しっかりと乾かせば点くそうですが…保管に気を使います。」 ジエナが聞いた。 「普段、火を使うときは、どうしているんだ?」 「普段は、料理人のなかに火の者がいて、その者に火を点けてもらうんです」 「自宅ではどうしている?」 「私は火が使えるので問題ありませんが、家族に火の者がいなかったり、扱いが難しい場合は、近隣の者に声を掛けます。隣近所に火そのものを分けてもらうのが普通です」 「それは…大変なことなのか?」 トールが首を傾げて聞くと、ポーラは頷いた。 「朝、昼、晩と、食事の支度の前に毎回火を探して歩くのは大変な手間です。火を保たせることのできる黒炭石(こくたんせき)は値段が高いですし、ずっと火の番をしていては何もできません。最終手段として、火を買う、ということになりますが、これは痛い出費となります」 「火を売るのか」 「はい。火、そのものであったり、火の者という、ひとの時間と手間であったり、燐寸という、物であったり、形は様々です」 「アルシュファイドでは、その火を、彩石の必要なく各家庭に行き渡らせているということか…」 ジエナが呟き、トールは、はっとした。 人の生活に最低限必要なもの。 それを行き渡らせることこそが第一にすべき仕事なのかもしれない。 能力のあるなしに関わらず…。 「その燐寸は、アルシュファイドに行けば仕入れられるのか」 「そのように思います。燐寸箱にはアルシュファイド産と書いてありました」 ふとコリンが自分の燐寸箱を見て、これにも書いてあるなと言った。 「小さくだが、確かにそう彫ってある。ザイ、見せてみろ」 コリンは、ザイの点火器も確かめて、やはり小さくアルシュファイド産と書いてあることを確認した。 「仕入れたい物が増えたな」 ジエナがそう言って、トールは頷いた。 「増えるばかりだ。帰って早く仕事をしなければ…」
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