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「まあ、慌てても仕方がない。船旅を楽しもう。今はこの酒を。ここの酒もなかなかいいな」
ジエナが杯を掲げるのを見て、トールは手元の酒を見た。
これも、一気に飲むと爽快な酒で、トールは、自分にはこういう飲み方が合っているなと思った。
「わたくし、白乳入りの甘みのあるお酒が好みかもしれませんわ」
エリィが言い、ジエナは笑って、いやいや、と言った。
「それは果実で割った酒を飲んでから決めた方がいい。ハンザ、甘いのをひとつ」
「はい」
少しして、ハンザがエリィに赤みがかった黄色い飲み物を持ってきた。
「どうぞ、サワナの果汁に酒と炭酸水を加えたものです」
エリィは、ありがとうと受け取って、香りを確かめてひと口飲み、ん!と声にならない音を出した。
「おいしい!爽やかで酸味があって、ほんの少し苦みもありますけれど、甘さが勝ちますわね!なんだかふわふわします」
「あまり飲み過ぎない方がいいですね。酔ってしまわれたようだ」
ハンザの言葉に、エリィは不満の声を上げた。
「まあ、まだ飲み足りないですわ!あら?そういえばこちらには、女性がいくらかおられますわね」
「ゆっくり飲むといい。…ああ、アルシュファイドの者だろうね。この店は安全だという認識のようだ。
ジエナが言い、トールは周囲を見回して、男性の連れがあるものの、なるほど女性が多いなと思った。
年齢としては50代、身なりは連れの男と同じに、いい方だ。
「既に安全な酒場もあるのか…」
コリンが呟くと、ジエナが言った。
「一歩店の外に出れば、酔った連れ合いとともにひどい目に合うかもしれん。保証ができないのがカザフィスの現状だ」
「そうか、店の外もか…」
「まあ、この界隈は安全そうに見えたがな。よい旅となるように願おう」
ジエナがまた杯を掲げた。
そんな風に話し、つまみを楽しんで、一行は船に戻った。
街路には店の灯りが届き、明るい方だ。
だが暗いところもあり、トールとコリンは、そういえばアルシュファイドは明るかったな、と気付いた。
滞在中は気付かなかったが、歩いた街路はいずれも明るかった。
「アルシュファイドは灯りも行き渡っているのだろうか?」
トールの問いに、エリィの足元に気を付けていたジエナが振り向いて答えた。
「うん?そうだな、街路は街灯があって明るいぞ。街道にも街灯が並んでいる。各家庭にも行き渡っているようだったぞ」
「火と、光だな」
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