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―Ⅱ―
翌日、トールが目を覚ますと、船はまだポス港にあった。
窓の外を見ると、市が開かれているようで、港には人が大勢いた。
トールは昨日の案内の声を思い出す。
ポス港での乗降は自由。
8時に出港…それまでに乗船を。
トールは部屋に掛けてある時計を見て、時間を確かめると、急いで身支度をした。
部屋から飛び出そうとして、部屋の前のルゼナに気付き、挨拶のために動きを止めた。
「おはよう。港を歩く!」
「承知しました」
返事を聞いて部屋に鍵を掛け、歩き出しながら、ジエナたちは、と聞いた。
「ジエナ様もコリン様も、今し方、港へ行かれたご様子です」
ポーラとキーンが通路にいるので、エリィはまだ起きていないのだろう。
そこでトールは、はたと立ち止まった。
「乗船券がない!」
「私が持っています。行きましょう」
ルゼナに促されて船上にあがると、降り口に向かった。
「おはようございます、降りられますか?」
「ああ、降りる」
トールが答えている間に、ルゼナが乗船券を2人分出し、船員は内容を確認した。
「きっかり8時に船を出しますので、7時半ばには戻られてください」
トールは腕時計を確かめた。
それならば、あと1時間ほどだ。
「分かった、戻る。行ってくる」
「お気を付けて」
船員の声に送り出されて、トールは広くしっかりとした段梯子を駆け下りた。
そして振り返った。
「この段梯子、いやに頑丈じゃないか?」
「ええ、しっかりとした作りをしています。しかしこの木はカザフィスのものではなさそうです」
「カザフィスのものでなかったら…」
「アルシュファイドの船が使っているのです。アルシュファイドの木、あちらの職人の仕事なのかもしれません」
「アルシュファイドはそんなことにまで気を使っているのか…」
「それはそうと、急がなければ市が終わってしまいます」
ルゼナに促され、トールは、市の方を見返った。
どんどん品物がなくなっていく。
急いで近付いてみると、それらはすでに買い手が付いているもののようで、右から左へ運ばれているだけだった。
トールはそれらを見ながら港を歩き、突き当たった建物のなかを覗いた。
そこでは、身なりのよい、50代ほどの伉儷連れらしき者たちが 、手で持てる程度の量の魚介類を、楽しそうに交渉して求めているようだった。
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