カザフィス王国

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トールは、目当ての分量を手に入れた伉儷が、左右を指差しながら建物の外へ出て行くのを見て、気になったが、そのとき、耳慣れた声に名を呼ばれた。 「トール!」 振り返ると、大きく手を振るコリンの隣で、ジエナが手招きした。 近寄って朝の挨拶を交わすと、ジエナが早速言った。 「そこの口のでかい魚を買おうとしているところだ。今、交渉して800ディナリまで下げた。600まで下げようと思うんだが、どうだ、できるか?」 「そんなこと」 しなくても、と続けようとする弟の口を覆って、ジエナはこっそり耳打ちした。 「ここじゃ値段を下げるのが当たり前。交渉の仕方を覚えろ」 トールは、その声音に本気を感じ取り、大きく頷いた。 「600ディナリでどうだ!」 店主は目を丸くして大きく体を動かした。 「お客さん、それはないよ、せめて770」 「む。そんなものなのか…」 諦めようとするトールを、ジエナが身振りで制した。 「いや!750ディナリ出そう!」 「売った!」 ありがとうございますと言って、店主はすばやく魚を手提げ袋に入れた。 ハンザが金を支払い、ジエナはその店主の区画から離れながら笑って言った。 「750はないだろう。700までは落としても店の儲けになる」 「しかし、儲けさせてやらないと」 「お前があの魚を600ディナリまで落とせたら、ほかの魚を高い値段で買うつもりだった。あの(あるじ)にはその方が儲けの総額は高かったんだ」 「なんと。その気なら言ってくれたらいいのに」 「あの主が風の者なら、筒抜けだろう…ちょうどいい、あれを見てみろ」 ジエナが立ち止まって示した先には、肉付きのいい女がいて、魚の入った籠を両手に持つ店主と交渉していた。 「そっちの魚とこっちの魚を合わせて買ってあげる!だからまとめて1000ディナリにしてよ!」 「ええー、1000ディナリですか」 「いいじゃないのよ、べッツラなんて臭みのある魚、私でもなければそんなに大量買いしないでしょ!ぬめりがあって調理も面倒だし!」 「いや、参ったな…分かりました、まとめて1000ディナリにしましょう」 「やった!」 女は跳び上がって喜んで、隣の連れ合いの袖を引いた。 「ああやるんだ」 ジエナがそう言って、その店主の前の品揃えを見て続けた。 「トール、あの魚を500ディナリにしてみろ。ほかの魚を使っても構わん」 トールは頷いて、店主に声をかけた。
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