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「店主、そこの魚を500ディナリで売ってくれ」
「500!お客さん、いきなりそれはないですよー」
「なに。いきなりとは…いきなり下げなければいいのか。では600ではどうだ」
「いやいや、680はいただかないと」
「なに。値段が上がったではないか」
「いやいや、元々800…はちょいとここだけの話高く付けすぎたかもしれませんけど、750なら売れる魚なんで」
「なんと。そうなのか…」
諦めようとして、トールはジエナの存在を思い出した。
ここで諦めてはならない。
「いや!680まで下げられるのだ、600まで下げてもらおう」
「ええー、まあ、仕方ないかなあ…」
そこで話が決まりそうになり、トールは、はっとした。
ジエナは500と言ったのだ。
「いや待て!やはり500にしてもらう!代わりにその魚を1100ディナリでどうだ」
「なんですって!お客さん、表記より高くしなくてもいいですよ。よし、いいでしょう、その魚を1000ディナリで買ってくださるなら、こっちの魚は500ディナリにします」
「よし!買おう!」
「ありがとうございます!」
店主はいそいそと魚を袋詰めにし、ハンザが金を払った。
「そろそろ行こう」
ジエナがそう言って、コリンとヤナたち、護衛たちがあとに続いた。
トールは高揚感と去り難い気持ちを覚えたが、諦めて付いていった。
先を歩くジエナは、建物を左手側に出て、隣の建物を回り込んだ。
すると何やら色々と書かれた、縦に長い旗が並んでおり、ジエナはその間にある引き戸を開ける。
トールは、旗のひとつに、鮮魚調理します、と書かれているのを見た。
なかに入ると、そこでは大勢の者が食事しており、笑顔が絶えなかった。
「トール!魚を寄越せ」
ジエナの声に、慌ててトールはそちらへ行った。
魚を差し出すと、店員らしき男が台の内側からなかの魚を確かめて、頷いた。
「お時間をもらいますよ。そちらでお待ち下さい」
「ああ、なんとか、7時半ばに船に乗れるように頼む」
「それなら大丈夫。ではかかります」
ジエナはその言葉を受けて、トールとコリンを促して、待合所と書かれた場所に座った。
「どうだった、交渉してみて」
「楽しかった!もっとやりたかった」
コリンが言って、トールは頷いた。
「ああ、物足りない」
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