カザフィス王国

27/46
前へ
/272ページ
次へ
「店主、そこの魚を500ディナリで売ってくれ」 「500!お客さん、いきなりそれはないですよー」 「なに。いきなりとは…いきなり下げなければいいのか。では600ではどうだ」 「いやいや、680はいただかないと」 「なに。値段が上がったではないか」 「いやいや、元々800…はちょいとここだけの話高く付けすぎたかもしれませんけど、750なら売れる魚なんで」 「なんと。そうなのか…」 諦めようとして、トールはジエナの存在を思い出した。 ここで諦めてはならない。 「いや!680まで下げられるのだ、600まで下げてもらおう」 「ええー、まあ、仕方ないかなあ…」 そこで話が決まりそうになり、トールは、はっとした。 ジエナは500と言ったのだ。 「いや待て!やはり500にしてもらう!代わりにその魚を1100ディナリでどうだ」 「なんですって!お客さん、表記より高くしなくてもいいですよ。よし、いいでしょう、その魚を1000ディナリで買ってくださるなら、こっちの魚は500ディナリにします」 「よし!買おう!」 「ありがとうございます!」 店主はいそいそと魚を袋詰めにし、ハンザが金を払った。 「そろそろ行こう」 ジエナがそう言って、コリンとヤナたち、護衛たちがあとに続いた。 トールは高揚感と去り(がた)い気持ちを覚えたが、諦めて付いていった。 先を歩くジエナは、建物を左手側に出て、隣の建物を回り込んだ。 すると何やら色々と書かれた、縦に長い旗が並んでおり、ジエナはその間にある引き戸を開ける。 トールは、旗のひとつに、鮮魚調理します、と書かれているのを見た。 なかに入ると、そこでは大勢の者が食事しており、笑顔が絶えなかった。 「トール!魚を寄越(よこ)せ」 ジエナの声に、慌ててトールはそちらへ行った。 魚を差し出すと、店員らしき男が台の内側からなかの魚を確かめて、頷いた。 「お時間をもらいますよ。そちらでお待ち下さい」 「ああ、なんとか、7時半ばに船に乗れるように頼む」 「それなら大丈夫。ではかかります」 ジエナはその言葉を受けて、トールとコリンを促して、待合所と書かれた場所に座った。 「どうだった、交渉してみて」 「楽しかった!もっとやりたかった」 コリンが言って、トールは頷いた。 「ああ、物足りない」
/272ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加