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「あそこでは、交渉を楽しませているようだ。最初から値段を高くして、値切らせ、どちらにとっても気分のいい取引とする。早起きすればよかったな。もっと厳しい売り買いの現状を見られたろうに」
ジエナの言葉に、厳しい現状とはどんなものだろう、とトールは思った。
「ここにもアルシュファイドの伉儷が多いな。彼らがここを作ったんだろうか」
コリンがそう言いながら周囲を見回す。
「そうだな。食べたいと言う者がいなければ、こうはならないだろう。ここは元々倉庫のひとつのようだ。そこに2階を作ったんだろうな」
煉瓦造りの倉庫にあって、その2階は木組みで、しかも立派な木のようだった。
「この木もアルシュファイドから持ってきたのかな」
トールが言うと、ジエナが、この木もとは?と聞いた。
「船の段梯子の作りが立派だったから、アルシュファイドのものかと思ったんだ」
「ああ、あれか。そう言われればいやに幅が広かったな。普通は人1人が通れる程度のものだ」
あの段梯子は、横に3人並んでも余裕がある広さだった。
「駆け下りてもびくともしなかったんだ。こちら側に、色々と手配をしているアルシュファイドの者がいるのかな」
ジエナは瞳を閃かせた。
「そうか、そんな者がもしかしたらいるかもな…」
いたとしたら、その者たちこそカザフィス王国の現状をよく知る者たちなのかもしれない。
他国の者に自国の内情を知られているということは恐ろしい現実でもあったが、ジエナは、利用価値を見出だした。
ポスは独立した町だ。
そうしてやっていけているのは、まさにアルシュファイドの旅行者のお陰だろう。
いや、町を造ったと言ってもいいかもしれない。
本来なら、酒や豆茶が通る港ではないのだ。
ニルフィ港とシャフト港に挟まれた、特徴のない町。
そこにいつの間にか、酒と豆茶が集まっている。
人が集まったからだ。
最初は、魚介類だったのだろう。
漁港としては大きな港だ。
だが漁ばかりでは食べていけない。
そこへ旅行者が来て、金を落としていった。
潤った人々が、物を集めた。
そうして今がある。
そんな感じではないだろうか。
「18番さん、出来ましたよ」
大きな声がジエナの耳を打った。
前の客が立ち上がって、品物を受け取る。
「19番さん、出来ましたよ」
ジエナの持つ番号だ。
トールやコリンに合図して、ジエナは立ち上がる。
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