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土産を買うならば東通りがいいが、国の姿を見られるのは中央の通りではないのか。
トールはこの考えをルゼナに確かめるため、部屋に呼んだ。
するとルゼナは、頷いて言った。
「どちらも国の姿には違いないですが、仕入れの様子を見ていませんから、見た方がいいでしょう」
「ジエナに、ハルト港に着いたら中央の通りを歩きたいと伝えてくれ」
「承知しました」
ルゼナが声による伝達を飛ばすと、帰ってきた答えは、了承を示すものだった。
「宿の名はカランコ。西の大通りから少し入ったところだ」
ハンザの伝達の声を聞き、トールは案内図に目を落とした。
説明のある店は、単品の販売にも応じてくれるようだった。
「どの店を見たらいいと思う?」
「気になる品物でしょうね。例えば、香辛料があれば、香辛料を扱う店」
「そうか、そうだな」
「それから、カザフィスの主要な産業。豆茶です」
「なるほど。布なんかはどうだろうか?」
「衣食住は重要です。布は布でも、天幕用の布があります」
「ああ、そうか。では、ここと、ここと、ここに行くかな。あとは、見ながら決めよう」
それからしばらく案内図を見て過ごしていると、やがて船内放送がシャフト港に近付いたことを知らせた。
「そういえば腹が空いたな」
「今朝、足りなかったんでしょう」
「何かつまむか。出よう」
「はい」
トールとルゼナはトールの部屋を出て、船上1階にあがった。
するとすぐ、クリプトという、腸詰めのヴォッカの肉に甘めの衣をまとわせて焼き上げた食べ物が目について、それを食べた。
飲み物を求めて、それを持ち、同じ階の展望室に入ると、ジエナたちが靴を脱いで一段高い区画に固まっているのが目に付いた。
近寄ると、窓の外のシャフト港の様子を眺めているのだった。
「ハルト港で見たいものは決まったか?」
ジエナに問われて、トールは頷いた。
「ああ、大体。ジエナたちはどうするんだ?」
「そうだな、俺たちも土産物は特に求めていないし、中央の通りをぶらぶらしているよ」
「荷物は?」
「信用できる荷持ちらがいるから、運ばせる」
「信用か…」
「ああ。覚えておくといい。ヤラカンというんだ。父親がセツド・ヤラカン、息子がムラト・ヤラカンという。父親は荷持ちの斡旋…荷持ちの紹介をしたり、問題が起きたときに間に入って取り持ってくれるんだが、息子はそれを半分継いでいる。まだ現役の荷持ちだ」
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