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「ジエナには、そういう者が各地にいるのか」
「まあ、最初は直接ひとを見て覚えていく。自分の目がどれほど信頼できるかをな。あとはまあ、巡り合わせさ」
「巡り合わせ…」
「ああ。あちらこちらに出向くようになったら、主たちとよく話してみるといい。物の流れだけ見るのではなくな」
「分かった。ありがとう」
「ああ」
ジエナはにっこり笑って弟を見た。
旅に出る前とは、きっと、今は見ているものが違う。
そんな思慮が感じられる目だ。
そこへ、ふわりと文箱が飛んできて、トールの胸の前で止まった。
トールは、目の色を変えて文箱を掴むと、急いでなかを開けた。
その勢いに、ジエナは口を開けて見守った。
「どうした?何か悪い知らせか?」
聞くと、ああ、いいや、と、上の空で返事する。
手紙を読み終えると、トールは上気した顔を上げた。
「手紙を書いてくる!」
「待て、相手は誰だ?」
「シェフィだ」
ジエナは目を見張った。
「なんと、お前たち…」
「違う、友人としてだ」
そう言って、トールは部屋に戻っていった。
ジエナは口を開けて、トールの去ったあとを眺めた。
ああは言ったが、あの態度はただ事ではない。
しかし…友人として。
トールは確かにそう言った。
つまり、きっとシェフィは友人として文を交わしているのだ。
トールの気持ちを知らずに。
それでいいのかとトールを思い、それでいいのだと思い至った。
シェフィにはまだ気持ちがないのだ。
そこへいきなり、大人の男が恋心を訴えてどうなる。
戸惑うばかりだろう。
トールはやはり待つ気なのだ。
だが、友人として、関わりを持ちたい。
それは、トールの恋にある、精一杯の歩みだった。
邪魔してはいけない。
強く思った。
「あら、何か嬉しそうですのね」
エリィがふとジエナを見て言った。
「うん?ああ。まあね」
ジエナはにこりと笑った。
エリィは不思議そうな顔をしたが、すぐに窓の外に気を取られた様子だった。
ジエナはにやつく口元を覆って、顎を撫で、それにしてもあの手紙は誰が届けたのだろうかと思った。
シェフィ本人だろうか?
「エリィ、シェフィは風が強いのだろうか?」
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