カザフィス王国

34/46
前へ
/272ページ
次へ
その宣言に、料理長は首を傾げたが、船を降りるまでに調理法を記して部屋に届けると約束してくれた。 食事を終えると、ジエナたちは再び、同じ階の展望室に行き、言葉遊びを始めた。 決められた1人が紙に書いた物を当てる、というものだ。 周りの者は、その1人に、順番に、それは白い色ですか、などと質問し、はい、か、いいえ、で答えてもらう。 これも、持ち人当て遊びのように、答えを当てるまでの質問の少なさを競う遊びでありながら、同時に会話を楽しむものでもある。 そうして遊んでいると、やがてガリヤ港に入港し、1時間で出港した。 一同は喉が渇いて、船上2階の喫茶室へと移動し、茶のひとときを楽しんだ。 最後は船上3階の展望室で過ごしていると、夕暮れが迫り、船内に声が響いた。 「ご乗船の皆さまにお知らせします。まもなくハルト港に接岸します。こちらで降りられるお客さまには、お忘れ物なきよう、今一度、身の回りの品をご確認くださいますよう、お願い申し上げます」 それを聞いて一行は急いで部屋に戻り、準備をする。 降り口は船首、右舷側。 夕暮れのなか、迫るハルト港に、胸が高鳴る者たち。 それはこれから見るものへの期待だったり、新たな生活へ飛び込むことへの不安だったりした。 以前、ハルト港を発ったときとは、違う自分を感じて、戸惑いや怖れ、同時に胸を張る気持ちもあった。 「さあ、まだあともう少し」 ジエナが言った。 その言葉を聞いて、あとほんの少しの猶予を感じた。 クランベルがハルト港に接岸し、(だん)梯子(ばしご)が渡される。 一行は最後に船を降りて、ジエナは待っていた荷持ちらと挨拶を交わした。 「少し町を見て回るから、先に宿に荷物を置いていてくれ。ハンザ、頼む」 荷持ちらは心得て、船の荷持ちらから荷を引き継いだ。 ハンザと荷持ちらと分かれた一行は、船でもらった案内図に従って歩き、3本の大通りのうち、中央の1本にすぐに出ることができた。 そこからは自由に歩き、トールはまず、手前から、着衣に使う布の店に入った。 店内には、ほかに客は2人で、取り敢えずトールのあとからついて入ってきた一行に、店主は目を丸くした。
/272ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加