カザフィス王国

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「まあ、ここ、こんなにたくさん布がありますのね。いったいどれほど長いんですの?何種類ありますの?似た色だけでもこんなにありますわ。まあ、土産に向かないとは、こういうことですのね。このひと巻きで、服が何着も作れてしまいますわ」 エリィの言葉に、店主は困ったような顔で笑った。 「うちはほんとうに、布と糸だけで、服を作ったりはしないんですよ、お嬢さん。好みの色があれば、1着分程度に切ってあげるよ」 「まあ、ありがたいですけれど、服を作る職人がおりませんの」 ジエナが急いで言った。 「もちろん、作らせるよ。気に入った布があるかい」 「でもわたくし、布だけ見ても、どんな服が出来上がるか、想像もつきませんわ」 ポーラが手近な布の(たば)を取り出して言った。 「こちらの色で、今のお召し物に似た意匠などいかがでしょう?旅が増えますと、動きやすい服装が必要になるかと存じます」 「おお、そうだ。動きやすい服を作らせなければ。意匠の方は出入りの仕立て屋に任せればいい。もちろん、今すぐここで決めなくてもいいが」 ジエナの言葉に、少し探してみますわとエリィは言った。 そんなやりとりのなか、トールは、布を選んでいる様子の客たちに目をやっていた。 邪魔をしてはいけないと思い、目の合った店主にこっそり聞いてみた。 「彼らは何を基準に布を選んでいるのだ」 「ああ、おふたりとも仕立て屋でね、これから多く作る色だったり、使う色だったりを選んでいるんだよ。買い手がどんな色合いを好むかは、判らないからね、悩む時間も長くなる」 そのうち、1人が動いて、布の束をいくつか取り出すと、糸を置いてある区画に行って、糸を選び始めた。 これは手早く済み、店主は呼ばれる前に勘定台の内側に戻った。 後ろから見ていると、店主は布の長さを測り、ザクザクと切ってまた長さを確かめ、計算をした。 「42,480ディナリになります」 支払い終わって出て行く間に、もう1人の客も選んでおり、すぐに測ってもらう。 この客も支払いを終えて出て行くと、トールは聞いた。 「もっと大量に買う客もいるのか?」 「ええ、うちの店はちょっとした品揃えで、珍しい色とか置いてるんで、数色買い占めて行く仕立て屋もいますよ。王宮に出すとかで買っていってもらったこともあります」 店主は自慢げに言った。
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