6人が本棚に入れています
本棚に追加
「まあ、ここ、こんなにたくさん布がありますのね。いったいどれほど長いんですの?何種類ありますの?似た色だけでもこんなにありますわ。まあ、土産に向かないとは、こういうことですのね。このひと巻きで、服が何着も作れてしまいますわ」
エリィの言葉に、店主は困ったような顔で笑った。
「うちはほんとうに、布と糸だけで、服を作ったりはしないんですよ、お嬢さん。好みの色があれば、1着分程度に切ってあげるよ」
「まあ、ありがたいですけれど、服を作る職人がおりませんの」
ジエナが急いで言った。
「もちろん、作らせるよ。気に入った布があるかい」
「でもわたくし、布だけ見ても、どんな服が出来上がるか、想像もつきませんわ」
ポーラが手近な布の束を取り出して言った。
「こちらの色で、今のお召し物に似た意匠などいかがでしょう?旅が増えますと、動きやすい服装が必要になるかと存じます」
「おお、そうだ。動きやすい服を作らせなければ。意匠の方は出入りの仕立て屋に任せればいい。もちろん、今すぐここで決めなくてもいいが」
ジエナの言葉に、少し探してみますわとエリィは言った。
そんなやりとりのなか、トールは、布を選んでいる様子の客たちに目をやっていた。
邪魔をしてはいけないと思い、目の合った店主にこっそり聞いてみた。
「彼らは何を基準に布を選んでいるのだ」
「ああ、おふたりとも仕立て屋でね、これから多く作る色だったり、使う色だったりを選んでいるんだよ。買い手がどんな色合いを好むかは、判らないからね、悩む時間も長くなる」
そのうち、1人が動いて、布の束をいくつか取り出すと、糸を置いてある区画に行って、糸を選び始めた。
これは手早く済み、店主は呼ばれる前に勘定台の内側に戻った。
後ろから見ていると、店主は布の長さを測り、ザクザクと切ってまた長さを確かめ、計算をした。
「42,480ディナリになります」
支払い終わって出て行く間に、もう1人の客も選んでおり、すぐに測ってもらう。
この客も支払いを終えて出て行くと、トールは聞いた。
「もっと大量に買う客もいるのか?」
「ええ、うちの店はちょっとした品揃えで、珍しい色とか置いてるんで、数色買い占めて行く仕立て屋もいますよ。王宮に出すとかで買っていってもらったこともあります」
店主は自慢げに言った。
最初のコメントを投稿しよう!