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「ほう、そうか。では仕立て屋の方にお前の名を出せば判るな。ジエナ、この店、出入りの仕立て屋も使っているらしい」
「そうか。ならばこの機会に好みの色を指定していこう。店主、名はなんという」
店主は話されている内容に、徐々に目と口を大きく開けていっていたが、ジエナの不意の問い掛けに応じた。
「ジェズ・ローワンといいます」
「分かった。今度うちの出入りの仕立て屋を寄越すから、そのときにこの色とこの色とこの色を第一王子のところに持って行くように言え」
ジエナがそう言いながら布の束を出した。
続けて、コリンが言った。
「俺はこの色がいい。あとこれも、これもいいかな。これも。第三王子だ」
トールも布の束を取り出して続けた。
「私はこの色…この色もいいな。あとこれとこれ。第二王子だ」
「エリィ、まだ選ぶかい」
「わたくし、この色とこの色にしますわ」
「ほかに好みの色は?」
「この一帯は好みですわ。あとその一帯も。でも、目移りしてしまって。仕立て屋の選ぶ物を見てみたいですわ」
「分かった。ジェズ、この一帯とこの一帯、第一王子の妃の好みだと伝えておけ。そこから何を選ぶか見たいとな」
「はっ、はい!」
「今日のところは取り敢えず、この色で、その仕立て屋がどんなものを作ってくれるのか見たいです」
そう言いながらエリィが差し出したのは、白に薄桃色が交じったような布だった。
「店主、それだけ、服一着分切ってくれ」
ジエナがそう言うと、店主は跳び上がって、只今!と声を上げた。
「それじゃあ、私は先に行く。ゆっくりしてくれ」
トールの言葉に、ジエナが頷いて答えた。
「ああ。またあとで。…店主、糸も買った方がいいか?」
その声を背に、トールはルゼナと店を出た。
通りは薄暗く、時計を見ると18時を過ぎていた。
食事の待ち合わせは19時だ。
「急がなければ。何が優先だと思う?」
「さて、服は見ましたから、住まいはどうでしょう。天幕の店へ」
「そうしよう。あちらだな」
ふたりは足早に通りを歩き、天幕を売る店に入った。
ほかに客はなく、店主はトールたちの身なりの良さに、客ではなさそうだと判断したようだった。
「ここは天幕の店だよ。間違えてないかい」
「いや、見に来たんだ。買うつもりでなくてすまないが、見せてほしい」
正面から言われて、店主は、なんとなく断れずに頷いた。
「一番売れるのはどの大きさだ?」
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