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「一番売れるのは小さいのだよ。安いからね」
これは広げてあるものがひとつあり、見せてもらうと、人1人が辛うじて眠れそうな広さだった。
「大きいものは売れないのか?」
「うちは、天幕は一応置いちゃあいるが、今じゃほとんど修理専門みたいなもんでね。新たに買う客は珍しいんだよ。みんな金がないんだ。まとまった金がね」
「そうか…修理とはどうするんだ?」
「天幕の弱い部分を取り換えるのさ。天幕の頭の先があるだろ。あそこは縫い合わせてある部分だから大切で、厚い布で補強してあるんだが、それを取り換えてやったり、出入り口なんかも何度も開け閉めするから弱る。天幕を張るために固定する四隅なんかもな。この辺」
店主は指差しながら教えてくれた。
「それでお前は食べていけるのか?」
「は?まあ、ほかにも色々仕事してるからな、1人で食ってくには困らないさ」
「天幕が売れた方がいいか?」
「そりゃ助かるが、天幕を必要とするってのは、まとまった金ができたか、まともな家を追い出されたってことだからな、前者なら、もっと金貯めてまともな家に住むべきだし、後者ならこれからきつい生活が待ってるわけだし、まあ、手放しじゃ喜べないな」
「それ以外の客はないのか?」
「ないね。ああ、いや、ごく稀に、軍が買ってくよ。野営用にだってさ」
「野営…」
「ああ。そっちも修理はするんだけど、ある程度になると買い換える。そっちの仕事が増えたら、嬉しいね」
「軍か…」
軍は、直接はトールの管理下にない。
だが最近、動くことが多いはずだ。
「最近は野営が増えたはずだが」
「ああ、ちょっと前に、まとめて売れたから助かった」
トールは店内を見回して聞いた。
「商品はこれだけか?」
小さな物はいくつか置いてあるが、各大きさのものがひとつずつ置いてあるのみだ。
「ああ、こないだ軍に持ってるもん全部渡しちまったし、元々注文を受けてから作るようにしている。外に書いてあったろ。作るのにひと月かかるって」
「そうか…普通の野営用だとどの大きさが売れた?」
「普通ってのはどういう意味だい?」
トールは自分の言葉の足りなさと、店主には判りそうもないことを聞いたことに気付いた。
「ああ、すまない、判らないよな。ルゼナ、私が野営するとしたらどの大きさになる」
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